「ホンモノ」の音楽。

『The Carnegie Hall Concert』Keith Jarrett ★★★★★
カーネギー・ホール・コンサート
 
今月号の「キーボードマガジン」の表紙のカッコよさに惹かれ,記事を読んでさらに惹かれて購入。あ…雑誌じゃなくて,CDの方ね(笑)
慢性疲労症候群を患い,一時は音楽活動中断を余儀なくされたキース・ジャレットが,復帰後初めて行ったソロ・コンサートのライブ録音盤。完全な即興演奏による,まさに「一夜限りの」本編と,5回にも及ぶアンコール全てが,2枚組に収められている。
即興演奏は,1曲(と呼ぶべきなのかどうか分からないが)3分〜10分くらいの長さで,10曲にわたって展開されている。正直,聴き始めてしばらくは「よくわかんない」感じだったのだけど…4曲目あたりから,どんどん引き込まれていった。聴衆のテンションも次第に上がっていくのが,手に取るようにわかる。インタビューによると,今回は,あえて客席の音をミックスで絞っていないのだという。
音楽の殿堂として,数々の伝説を作ってきたカーネギーホール。そのステージの中央に,1台だけ置かれたスタインウェイに向かうキース。時に鼻歌をまじえ,またある時は荒々しい声を上げ,あるいは足を踏み鳴らしながら…音楽が紡がれていくその瞬間の,何とスリリングで,エキサイティングなこと!…最後の10曲目,その音色は,もはやピアノという楽器をも超越した,何か別世界への誘いのような響きだった。
 
「ここには,本物の音楽がある」…まさに,そんな感じの110分間。
リアルタイムで音楽をつくる,という行為で言うなら,まぁDJとかだって同じだとは思うんだけど…やはりライブハウスの喧噪のなかで生まれるカオスなものとは,ちょっと性質の違うもののような気がする。
歴史を刻んできたステージの上で…キースは客席の向こうに「音楽の神々」の姿を見ただろうか?
その夜,彼らが聴いたものは…その両者の「会話」だったのかもしれない。